vol.39 「魔笛」

新国立劇場魔笛
指揮:アルフレート・エシュヴェ Conductor : Alfred Eschwé
演出:ミヒャエル・ハンペ
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団

主な配役:)
ザラストロ:松位 浩 Sarastro : Matsui Hiroshi
タミーノ:ステファノ・フェラーリ Tamino : Stefano Ferrari
夜の女王:安井陽子 Königin der Nacht : Yasui Yoko
パミーナ:カミラ・ティリング Pamina : Camilla Tilling
パパゲーノ:マルクス・ブッター Papageno : Markus Butter
パパゲーナ:鵜木絵里 Papagena : Unoki Eri
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舞台は宇宙をイメージした作り。柱や壁にあたるところは紺地に星や星雲団が沢山描かれていて
夜の女王の最初の登場は月のような球体の中に入った状態で上から降りてくる。
三人の童子も宇宙独楽のようなものに乗って空中を漂うし、最後に試練を乗り越えたタミーノと
パミーナに授けられるのは太陽系の模型で、背景に降りてくる地球にそれを捧げて幕が下りる。


ザラストロ、パパゲーノ、モノスタトスが素晴らしかった。タミーノはちょっと残念。
夜の女王の有名な二幕のアリアは後半よかったけれど前半は少し硬かった。初日だからかな。
パミーナも悪くはなかった。パパゲーナの老婆のときがとても上手だった。娘は娘らしく、老婆は
老婆らしく。その落差がよかった。他にも三人の侍女のソプラノが特にステキだった。
実はモノスタトスの高橋淳はタミーノの、侍女Iの安藤赴美子はパミーナのカヴァー(控え)
だったらしく、そのキャスティングも見てみたかったと思うくらい。
他には二人の鎧を着た武士の一人、長谷川顯もさすがだと思ったが以前「ドン・ジョヴァンニ」の
騎士長が素晴らしかったのを覚えているので、彼のザラストロも見てみたい。


魔笛」はいわゆるオペラではなく「ジングシュピール(音楽劇)」といわれるもので、
従来のイタリアオペラのようなレチタティーヴォはなく、その部分は地の台詞として語られる。
魔笛」はドイツ語で書かれているので台詞も全てドイツ語だ。ここが難しいところでもある。
この地の台詞がとても上手だったのがパパゲーノ役のマルクス・ブッターだったのだが、彼は
オーストリア出身なのでちょっとずるい(笑)。でもコミカルなこの役をとても自然に演じていた。
背も高く痩せ型でとても魅力的なパパゲーノだった。鳥を呼ぶ笛を吹くシーンで「さくらさくら」
の一節を吹くという観客へのサービスがあり場内も受けていた。
反対に王子なのに背が低く脚が短くがに股気味でがっかりだったのがタミーノ役のステファノ・
フェラーリ。パミーナと同じくらいの身長だし、全然かっこよくない。歌もパワー不足な感じ。
よく言えばノーブルなんだけど、ソフト過ぎて運命に立ち向かうような、自分の道を切り拓いていく
強さが感じられない。むしろその場その場で流されているような、言いつけを守る良い子という感じ。


音楽は色々な要素が入っていて楽しめるのだけれど、いかんせん台本が好きじゃない。
フリーメーソンの教義らしいが、身分にかかわらず人間としてあるべき姿を追求するのはいいけれど
「女は嘘つき」「男が正しい道に導いてやらなければいけない」っていう考えはナンセンス。
これなら古の神々が愛だの恋だのやってるほうがずっといいや。
タイトルである「魔笛」も大して活躍しないし。まだパパゲーノがもらったグロッケンの方が役立ってる。
なんか色々引っかかるストーリーなので、全幕ではなくアリアだけで楽しんだほうがいいのかな。