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第1回テレビ討論会終了、初の直接対決から見えた6つのポイント


-1回目となるテレビ討論会が行われた


第1回テレビ討論会終了、初の直接対決から見えた6つのポイント
2016.09.27 Tue posted at 20:17 JST
CNN.co.jp
ニューヨーク州ヘムステッド(CNN) 米大統領選に向けた26日の第1回テレビ討論会では、民主党候補のヒラリー・クリントン氏が共和党候補のドナルド・トランプ氏を挑発し、トランプ氏が感情的に反撃したり否定したりする場面が目立った。
トランプ氏が不用意に攻撃を試みた結果、裏目に出た例もあった。例えば、トランプ氏はクリントン氏が討論会への準備でしばらく遊説を中止したと批判したが、クリントン氏は「そう、準備しました。ほかになんの準備をしたかというと、大統領になる準備です」と鮮やかに切り返した。


今回の討論会を振り返り、重要なポイントを6つ挙げる。
(1)挑発に乗ったトランプ氏
トランプ氏が討論の場で反撃を得意とすることは自身も認めている。しかしこの日は、同氏がすきを見せるのを待って攻撃に出るクリントン氏の冷静さが際立っていた。
トランプ氏がまだ納税申告書を公表していない問題については、まず司会者が同氏を問い詰めるのを待ったうえで、「もしかしたら自分で言うほどの資産家、慈善家ではないのかもしれない。連邦税を全く払っていないことを、米国民に知られたくないのかもしれない」「何か隠していることがあるのだ」と手厳しく追及した。
トランプ氏は感情にまかせて、「税金を払っていないというなら私は利口だということ」「どうせ無駄使いされるだけだ」と言い返した。
共和党指名レースの討論会では、ほかの候補者同士や司会者の応酬の合間に辛らつな発言で一石を投じることが多かったが、今回は勝手が違ったようだ。
クリントン氏をめぐっては、国務長官時代のリビア東部ベンガジで起きた米領事館襲撃事件への不十分な対応や、公務に私用メールサーバーを使っていた問題、クリントン一家が運営する慈善団体「クリントン財団」の大口献金者に便宜を図ったとされる疑惑などが指摘され、共和党陣営から「信用できない人物」との批判を浴びている。トランプ氏も集会の場ではこうした点を攻撃してきたが、討論会の直接対決ではほとんど追及できずに終わった。
(2)トランプ氏、労働者層にアピール
トランプ氏が最も強く攻勢に出たのは討論会の序盤、クリントン氏が2012年の時点で環太平洋経済連携協定(TPP)を全面的に支持していたと指摘した場面だ。クリントン氏は現在、TPPに反対の立場を取っている。
トランプ氏はさらに、クリントン氏は30年近くワシントン政治にかかわっていながら国民の経済状況改善にほとんど貢献していないとの持論を改めて展開。オハイオ州ペンシルベニア州など、工業地帯を抱える激戦州へのアピールを図った。
太陽光エネルギーを原動力とした「新たな経済活動」を唱えるクリントン氏を、「30年前から取り組んでいるのに今になってようやく問題の解決策を考え始めたのか」と批判した。
クリントン氏が「今夜の討論会が終わるまでに、これまでに起きた出来事すべての責任を負わされそうな気がする」と苦笑すると、トランプ氏は「もちろんそうだ」と言い返した。
(3)「真実」とうまくやれないトランプ氏
トランプ氏は討論会で大小さまざまなうそを繰り返した。
クリントン氏が「トランプ氏は気候変動を中国のでっちあげだと考えている」と指摘したのに対し、本人は「そんなことは言っていない」と力説したが、実際には12年11月にこうツイートしていた。「地球温暖化は中国人が中国人のために、米国の製造業の競争力を奪う目的で作り出した概念だ」
トランプ氏がかつてイラク戦争を支持していたとして、司会者が引用した02年のインタビュー記事についても、「間違いだ」と何度も繰り返した。
トランプ氏は最近までオバマ大統領が米国生まれではないと主張し続けていた。これについて同氏は、クリントン氏も08年大統領選でオバマ氏と民主党指名を争った際、同様の疑問を呈していたと発言したが、それは事実でないことが確認されている。
ニューヨーク市の犯罪発生件数は減少傾向にあるのに「増加している」と言い張り、クリントン氏が「成人してからずっと」過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」と戦っていると語った。クリントン氏は1947年生まれ、ISISが結成されたのは2000年代半ばのことだ。
事実と反する発言の連発を受け、クリントン氏は「事実確認の担当者が音声のボリュームを上げてくれることを願う」と語った。
(4)クリントン氏がトランプ氏の人種差別を非難
トランプ氏はオバマ氏の出生に関する主張について追及されることを覚悟していたと述べたが、新たな答えを用意していたわけではない。オバマ氏が米国生まれであることをついに認めたのはなぜかと司会者が質問したのに対し、「話題を変えたかったから」と返答。ISIS、雇用創出、国境警備という話題を挙げ、「私にとって、米国にとって非常に重要な議論に移りたかった」からだと説明した。
一方クリントン氏は、トランプ氏が70年代に人種差別問題で司法省に訴えられていた例を挙げ、同氏には「人種差別的行動の長い前歴がある」と強調した。
(5)トランプ氏の的外れな攻撃
トランプ氏はクリントン氏や司会者の発言を何十回もさえぎり、クリントン氏を「スタミナに欠ける」と批判した。
クリントン氏の攻勢を受け、躍起になって防戦を試みたものの、攻撃には勢いがみられなかった。
クリントン氏は私用メール問題についての質問に対し、これまでより簡潔に「弁解はしない。あれはミスだった」と答えた。トランプ氏は「ただのミスではない。故意にやったことだ」と反論するにとどまり、突っ込んだ攻撃には出なかった。
その後もう1度だけ、自身の納税申告書の問題で、もしクリントン氏が問題のメールをすべて公開したら、自分も「弁護士に逆らって」申告書を公開すると宣言した。しかしこの時もすぐ次の話題に移り、最後までメール問題を蒸し返すことはなかった。
(6)両氏の仲は険悪
討論会からは、両氏の間に険悪な空気が流れていることが感じられた。残る2回の討論会ではさらに対立が深まりそうだ。
クリントン氏は「この人は女性をブタ、のろま、犬という言葉で呼んだ男だ」と語り、トランプ氏の女性に対する態度を批判した。
さらに、トランプ氏がかつてミス・コンテスト出場者を「ミス子豚」と呼び、中南米出身者だからと「ミス客室清掃係」とも名付けていたと非難した。トランプ氏は動揺した表情を見せ、2回にわたって「どこで知ったんだ」と尋ねた。
96年にミス・ユニバースとなったベネズエラ代表の女性が今年、米メディアとのインタビューで、トランプ氏からたびたび体格を嘲笑された経験を打ち明けていた。


トランプ氏は討論会終了後に報道陣との会見室に姿を見せ、クリントン氏の夫であるビル・クリントン元大統領の不倫スキャンダルにはあえて言及しなかったと強調した。元大統領本人や、夫妻の長女チェルシーさんが前列にいたため、今回は適切でないと判断したという。
クリントン氏は今後、討論会での健闘ぶりを持続的な支持につなげていく必要がある。トランプ氏にとって雪辱のチャンスとなる次回の討論会は、現地時間10月9日に予定されている。