ノーベル賞

ノーベル化学賞 お家芸カップリング 日本の層厚く
鈴木章・北海道大名誉教授、根岸英一・米パデュー大特別教授のお二方。
ノーベル化学賞受賞、おめでとうございます。
受賞理由の研究は70年代に次々と発表された論文だそうです。その「クロスカップリング
という技術の内容は

化学反応を促す仲介役(触媒)に金属を利用し、不可能と思われていた有機化合物を自在に結びつけ、新たな性質を持つ物質を次々と生み出した。

というものだそうです。その技術は医薬品や液晶パネルなど、現代の生活に
かかせないものとなっているそうですよ。「技術立国日本」といわれたのは
こうした研究者が大勢いたからなんですね。ありがたいことです。

ノーベル化学賞 お家芸カップリング 日本の層厚く
毎日新聞 10月7日(木)2時39分配信
 医薬品や次世代照明と期待される有機ELエレクトロルミネッセンス)など、私たちの生活を支える数々の製品を生み出す原動力となる化学反応を考案した鈴木章・北海道大名誉教授(80)と根岸英一・米パデュー大特別教授(75)を含む3氏に、ノーベル化学賞が贈られることになった。化学反応を促す仲介役(触媒)に金属を利用し、不可能と思われていた有機化合物を自在に結びつけ、新たな性質を持つ物質を次々と生み出した。社会に大きく貢献した「縁の下の力持ち」ともいえる発見で、日本の有機化学の層の厚さを示した。【八田浩輔、河内敏康、永山悦子】
 ◇60年代から発見次々
 世の中にある100あまりの元素を組み合わせ、有用な物質を作り出すためには、化学反応によって元素や化合物同士を結合させることが必要だ。ただし、炭素が骨格となっている有機化合物を結合させることは難しい。
 今回の受賞対象となった有機合成反応は、有機化合物を効率よくつなぎ合わせたり、分離させることを可能にする技術だ。3氏の受賞対象となったパラジウムなどを触媒に使った化学反応「クロスカップリング」は二つの有機化合物を自在にくっつける「のり」といえ、有機合成に新たな時代を築いた。
 この分野は、日本が世界を先導してきた「お家芸」といえる。70年代、多くの日本人研究者が、パラジウムやニッケルなどの金属を触媒に用いたカップリングの研究に傾注した。きっかけは、玉尾皓平(こうへい)・理化学研究所基幹研究所長(67)らが72年に発表したニッケルを触媒に使ったクロスカップリングだ。その後、望まない副生成物ができるのを抑えるなど、改良が重ねられ、日本人研究者の名前を冠した化学反応が次々と生まれた。
 今回受賞したリチャード・ヘックデラウェア大名誉教授(79)の化学反応も、研究者の世界で「溝呂木・ヘック反応」とも呼ばれる。「溝呂木」は故・溝呂木勉・東京工大元教官のことで、溝呂木さんがヘック名誉教授の1年前に発見した反応だった。
 玉尾さんの発見にヒントを与えた山本明夫・東京工大名誉教授(有機金属化学)は「当時の日本の研究室は、資金や機材などが潤沢ではなかったが、有機化学の研究者の層が大変厚かった。最初にやったという点では、玉尾さんが入ってもよかったのではないかと思うが、今日の3人の組み合わせは、応用に対する価値をより重視したように思う」と指摘する。小林修・東京大教授(有機合成化学)は「これらの発見は歴史が古く、世界中でいろいろな分野で使われている。その点が高く評価されたのだろう」と話す。
 玉尾さんは「日本人研究者お二人は、いろいろな金属が触媒として使えることや、幅広い条件で使える反応を作り出したことが評価されたのだろう。日本の若い研究者に勇気と元気と希望を与えた」とたたえた。
 3氏の受賞理由となったパラジウムを触媒に使う有機合成反応は、現代の産業利用の中心となっている。その礎を築いたのは、辻二郎・東京工大名誉教授(83)だ。辻さんは60年代、世界で最初に炭素同士の結合の触媒にパラジウムを使った。一方、パラジウムは希少な金属のため、最近は鉄を触媒に使うクロスカップリングの研究が進み、日本人研究者も熱心に取り組んでいる。小西玄一・東京工大准教授は「まだ鉄はパラジウムの域には達していないが、今後の発展に期待したい」と話す。
 ◇医薬品から液晶まで、生活密着の基礎技術
 鈴木さんと根岸さんが新たに開発した化学反応(クロスカップリング)は、医薬品や農薬などの製造に幅広く活用されている。例えば医薬品では、強力な血圧降下剤「バルサルタン」や、農薬では「ボスカリド」の合成などに大規模に用いられている。近年は、巨大プラントでこの反応を使って大量生産されている。鈴木カップリングを使った医薬品だけでも年間1兆円近くの売り上げがあるとみられる。
 医薬品では、病気の原因となるたんぱく質の働きを抑えたり、促進する化合物探しが新薬開発の鍵を握る。現在、多くの製薬会社は、研究の最初の段階で、この反応を使い、化合物の一部を取り換えるなどして、薬として有用かどうか評価する作業を繰り返している。今回の手法の開発を受け、90年代以降、機械的にさまざまなタイプの化合物を一括して作る技術が発達、飛躍的に大量の化合物を作り出すことが可能になり、新薬候補となる物質が広がった。また、この反応に使う試薬を販売する専門のベンチャー企業が出現し、産業分野にも変革をもたらした。
 電子産業に与えた影響も大きい。例えば、電卓の液晶パネルに使われる化合物の「ペンチルシアノビフェニール」や、有機ELの材料の製造にも大きく寄与している。東京大の佐藤健太郎・特任助教有機化学)は「資源の少ない日本では、こうした新技術の開発が生命線と言ってもいい。鈴木、根岸両氏が編み出した手法は、こうした製品の製造を下支えする重要な基礎技術になっている」と話す。