vol.7 バレエ「バレエ・フォー・ライフ」

モーリス・ベジャール・バレエ団2006年日本公演「バレエ・フォー・ライフ」
振付:モーリス・ベジャール、音楽:クイーン、W.A.モーツァルト
出演:モーリス・ベジャール・バレエ団

1991年に45歳でエイズにより亡くなったクイーンのフレディ・マーキュリー
翌92年に45歳でエイズにより亡くなったダンサー、ジョルジュ・ドン。
この二人へのオマージュとしてこの作品は作られた。
クイーンの数々の名曲の間にモーツァルトの曲が挿入されている。
モーツァルトもまた35歳の若さで亡くなっている。
「若くして逝ってしまった者たちについての作品だ」とベジャールは言う。
とてもベジャールらしいバレエ。
いわゆる「古典作品」をバレエだと思っている人にはこの作品は衝撃的だろう。
流れてくるのはクイーンのガンガンのロックだ。
ライブ会場のような照明もバレエとしては異質だ。だが非常に効果的だった。
すばらしいダンサーがたくさんいたが、やはり秀逸だったのはジル・ロマン。
ドン亡き後、ベジャール・バレエを体現する人としてバレエ団を引っ張って
来た人だ。彼の演技者としての資質は目を見張るものがある。
踊りながら表現するのではない。舞台の上にいるだけで、もう存在が主張するのだ。
まなざしひとつで観客を魅了する。彼が観客に向けて言った「I Love You」の台詞。
三回目は確かに私を見て、指差して言ってくれたと思う。「I Love You!」と。
そう錯覚させるほど彼の射るようなまなざしはするどく向けられた。
ロックの合間に挿入されるモーツァルトの小品。ピアノコンチェルトでは
穏やかだけれどどこか不安をかきたてるような不思議な踊りが繰り広げられた。
この作品に「コールド・バレエ」はない。大勢で踊っていても一人ひとりが
違う動きをしていることが多い。どこを見てよいやら迷うほどだ。
締めくくりは「ショウ・マスト・ゴー・オン」。その名のとおりだ。
袖で何があろうと、プライベートで何があろうと、笑顔で舞台に立つダンサー。
以前見たときと若干違う部分があったように思う。が、記憶は定かでない。
今回モーツァルトの曲で「コジ・ファン・トゥッテ」の4重唱があったが
これは以前なかったように思う。他にも細かい演出が変わったような。
しかし感動は毎回新鮮だ。今日も非常によい舞台を見ることができた。
ベジャール、ジル、そしてカンパニーの皆さん、ありがとう。