vol.28 「ドン・キホーテ」

ドン・キホーテ
出演:ポリーナ・セミオノワ、アンドレイ・ウヴァーロフ、東京バレエ団
振付:マリウス・プティパ、アレクサンドル・ゴールスキー、ウラジーミル・ワシリーエフ
指揮:アレクサンドル・ソトニコフ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

東京公演4回のうち、1回だけ上野水香&高岸直樹主演の日があります。
主な配役:)
・キトリ/ドゥルシネア姫:ポリーナ・セミオノワ
・バジル:アンドレイ・ウヴァーロフ
ドン・キホーテ:野辺誠治
サンチョ・パンサ:高橋竜
・ガマーシュ:平野玲
メルセデス:井脇幸江
エスパーダ:木村和夫
・ロレンツォ:横内国弘
配役詳細はこちら


セミオノワ、よかった。お茶目で明るい町娘、活き活きとしたキトリだった。
2年前の世界バレエフェスのレビューを見ると、セミオノワに表現力が欲しい
とか書いてあるけど、今日はとてもよかった。この2年で大きく成長したようだ。
大好きな「夢の場」でのドゥルシネア姫を「上品でやさしいお姫様」として踊って
くれたのもとても嬉しかった。最近はキトリのまま元気一杯に踊る人が多くて
とても残念に思っていたのだ。ドン・キホーテの理想である麗しの姫君、という
設定を忘れてしまったかのような踊りを見せられるとどんなにキトリが良くても
がっかりしてしまう。このセミオノワのドゥルシネア姫はワガノワバレエ学校の
教えだろうか。それともマラーホフによるもの?あるいはロシア人だから?
最後のグラン・パ・ド・ドゥのコーダ。フェッテを注目していたが、トリプル
から入った。そしてシングル−シングル−ダブルの組み合わせで32小節回り、
また最後はトリプルで締め。前半はシングルでは扇を閉じてダブルで開くという
小物を使った変化を見せ、後半はダブルで手を腰に当てるというポーズで変化を
つけた。がむしゃらにたくさん回るのではなく、余裕を持った美しい回転だった。
ウヴァーロフのバジルは安定感があってよかった。バジルというとどうしても
テクニックを見せ付ける踊りをしてしまいがちだけれど、ウヴァーロフのバジルは
丁寧で適度に抑制が効いていて、力任せではなく、きちんとした端正な大人の踊り
だった。といって物足りないというわけではなく、神経の行き届いた余裕のある
バジルは決して崩れることなく安心して物語の世界に浸ることができた。
狂言自殺のシーンで短剣ではなく、床屋らしく髭剃り用のかみそりを取り出した
のは初めて見る演出だった。これは誰の案だろう。
二人は今回初共演らしいが、ウヴァーロフのサポートも安定感があり、とても
よかった。二人とも長身だから舞台に映える。
ガマーシュの平野さんがすばらしかった。貴族の鼻持ちならないところとか、
威張っているけれど中身がないところとか、ガマーシュという役柄に求められる
滑稽さをちゃんと表現していた。ガマーシュがダメだとこの作品の面白さが半減
してしまうという重要な役どころだけれど、立派にそれを務めていた。
エスパーダの木村さん、はじめ登場したときは木村さんだと気づかずに「なんか
似てるなぁ」と思って配役表を確認したら本人だった(笑)。髪を伸ばしてるとは
思わなかった。
「夢の場」でのドゥルシネア姫のチュチュはセミオノワ自前らしかったけれど
ブルーだった。こんな色は初めて見た。白とかピンクとかが多いから。プログラム
を見ると今回のバージョンではドゥルシネア姫は白の衣装を設定しているらしく
周囲のコール・ド・バレエの人やらと合っていなかったように思う。残念。
ジプシーの踊りは吉岡美佳だったが、なんだかイマイチ。踊れる人なのに、なぜ?
今日の舞台は小さな失敗が散見された。踊っている最中に頭巾がとれてしまったり、
闘牛士が一人転んでしまったり(このダンサーはなんだか悪目立ちしていて、つい
目で追っていたら滑って転んでしまった。群舞は目立ってはいけない)、闘牛士
床に突き刺した短剣が一本倒れてしまったり(メルセデスがその短剣の間を縫って
踊るので、転ばないかとひやひやした)、放り投げられたギターやタンバリンを
取り落としてしまったりと、一つ一つは些細なことだけれど、気分の良いものでは
ない。初日だったので緊張していたのだろうか。
今回もブラボー屋の存在がいただけなかった。すばらしい踊りをすれば、自然と
ブラボーの声はかかるものだ。それを無視してソリストの踊りが終わった途端に
誰でも声をかけるのはいかがなものか。ドリアードの女王はヴァリエーションの
最後のシェネ(連続回転)でバランスを崩して失敗してしまい、終わりのポーズ
だけなんとか決めた。そこでかかるブラボーの声。もし嫌味や皮肉でないならば、
これはダンサーに対してとても失礼な行為だと思う。


久しぶりの舞台を堪能した。芸術ってすばらしい。
客席の椅子の座面はやや固く、途中で傷が痛んだためもぞもぞしてしまった。
ギエムの新しいDVDが販売されていたので購入。
シルヴィ・ギエム パリ・オペラ座の伝説 SYLVIE GUILLEM au travail」



入院していて行かれなかった舞台のチケット代。オペラとバレエで約18万円。